思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
「余計なことをされる必要はない」

遮るように言われる。

その言い方に、思わず言葉を失った。

いつもは、あんなに穏やかなのに。

どうして、こんな――

「……すみません」

反射的に謝ってしまう。すると。

「違う」

すぐに否定された。

その声は、さっきまでとは違っていた。

わずかに、柔らかい。

「君が謝ることじゃない」

そう言って、社長は一歩近づく。

また、距離が縮まる。逃げようとは思わない。

でも、その近さに、胸がざわつく。

「……あまり、他の男に簡単に近づくな」

低く、抑えた声。

その言葉の意味を、理解するのに少し時間がかかった。

「……え?」

思わず見上げる。

すると、社長は一瞬だけ視線を逸らした。

まるで、自分の言葉に気づいたように。

「……仕事の話だ」

そう付け加える。
< 26 / 89 >

この作品をシェア

pagetop