思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
けれど、その言い訳が不自然なのは、誰の目にも明らかだった。

私は何も言えなかった。

ただ、胸の奥が強く打つのを感じていた。

どうして、そんなことを言うのだろう。

どうして、そんな顔をするのだろう。

まるで――私を、誰にも渡したくないみたいに。

その考えが浮かんだ瞬間、息が詰まった。

知らないはずなのに。

分からないはずなのに。

どうしてか、その感情だけは――はっきりと、伝わってきた。

その日の夕方。

社長室に呼ばれ、書類の確認を終えたあとも、私はすぐに立ち上がることができなかった。

机の上に視線を落としたまま、指先をぎゅっと握る。

聞きたいことが、ある。

けれど聞いてしまっていいのか、分からない。

「……どうした」

先に声をかけてきたのは、社長の方だった。

静かな声。
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