思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
けれど、その奥にわずかな緊張が混じっている気がした。

「……あの」

ゆっくりと顔を上げる。

視線が、ぶつかる。逃げ場のない距離。

「私たち……昔、どんな関係だったんですか?」

言った瞬間、空気が止まった。

社長の表情が、わずかに揺れる。

ほんの一瞬。それでも、見逃せないほどの変化だった。

「……何でも言い合える仲だった」

少し間を置いて、そう答えた。

低く、落ち着いた声。

けれど、どこか苦しそうにも聞こえる。

「楽しいことも、嬉しいことも」

続けるように、言葉が紡がれる。

「時には、仕事の意見を交換することもあった」

淡々とした説明。

けれど、その一つひとつが、やけに重く胸に落ちてくる。

「……そんな仲だったんですか」

ぽつりと呟く。

頭では理解できる。信頼関係のある、いい関係。
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