思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
上司と部下として、理想的な距離。

それなのにどうしてだろう。

それだけでは、足りない気がする。

「それだけ、ですか?」

気づけば、そう聞いていた。

自分でも驚くほど、言葉が勝手に出た。

社長は、何も答えない。

ただ、じっと私を見つめている。

その視線が、痛いほどに真っ直ぐだった。

やがて。

「……ああ」

短く、肯定する。それ以上は、何も言わない。

沈黙が落ちる。私は、その答えを受け止めきれずにいた。

何でも言い合える仲。それは、きっと本当なのだろう。

嘘ではない。でも――全部でも、ない。

そう感じてしまう。

「……そう、ですか」

小さく頷く。それ以上、踏み込むことはできなかった。

けれど胸の奥に、確かな感情が残る。
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