思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される

第3章 名乗る恋人

その日の午後、デスクで資料を確認していると、内線とは違う着信音が鳴った。

手元のスマートフォン。

見慣れない番号が表示されている。

一瞬だけ迷ってから、通話ボタンを押した。

「……はい、広中です」

『あ、千紗?』

低くて、どこか軽やかな声。

思わず言葉に詰まる。

「……どちら様でしょうか」

『え?覚えてない?祐樹だけど』

「祐樹……?」

名前を繰り返す。

けれど、何も浮かばない。

胸の奥に引っかかるものすら、ない。

「……ごめんなさい。事故で、記憶を失っていて」

少しだけ躊躇いながら伝えると、電話の向こうが一瞬、静かになった。

『……そう、なんだ』

その声には、わずかな動揺が混じっていた。

『大丈夫?』

「はい。仕事には復帰できています」
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