思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
『そっか……』

短い沈黙。

そして、少しだけ明るい声に変わる。

『じゃあさ、会えない?直接話したい』

「……え?」

突然の提案に戸惑う。

けれど。

“祐樹”という名前に、何かを知れるかもしれないという期待もあった。

「……分かりました」

気づけば、そう答えていた。

その日の仕事終わり。指定されたカフェに足を運ぶ。

ガラス越しに店内を覗いた瞬間、視線が合った。

手を軽く上げて合図する男性。

自然と、足がそちらへ向かう。

「千紗」

名前を呼ばれる。柔らかい響き。

目の前に立つと、不思議な感覚に包まれた。

懐かしい――ような気がする。

けれど、それがどこから来るのかは分からない。

「……初めまして、ですよね」

そう言うと、彼は少しだけ苦笑した。

「そうだな。今の千紗にとっては」
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