思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
椅子を引いてくれる仕草は、慣れているように見えた。

向かい合って座る。改めて顔を見る。

整った顔立ちに、優しげな表情。

嫌な印象はない。むしろ、安心できる雰囲気。

でも――どこか、引っかかる。

「……俺たちさ」

祐樹が、静かに口を開いた。

「結構、長く一緒にいたんだよ」

「そう、なんですか」

頷きながらも、実感が伴わない。

「だから、急に忘れられて、正直びっくりしてる」

苦笑するように言う。その言葉に、胸が少しだけ痛む。

申し訳なさと、分からないもどかしさ。

その両方が混ざる。そして彼は、まっすぐ私を見て言った。

「俺、千紗の恋人だよ」

「……え?」

思考が止まる。恋人。

その言葉が、やけに重く響いた。

「……本当に?」

問い返す声が、わずかに震える。

祐樹は、少しだけ優しく笑った。
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