思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
社長は、何も言わない。

ただ、じっとこちらを見ている。

その視線が、妙に重い。

「でも、教えてくれてよかったです」

そう言いながら、私は少しだけ笑った。

「私、何も思い出せなくて、不安だったので」

本音だった。

空白の中に、ひとつでも確かなものができた気がしたから。

けれどその言葉を聞いた社長の表情は、さらに固くなる。

「……そうか」

低い声。感情を押し殺したような、短い一言。

それだけで終わるはずだった。でも。

「……それで?」

続けるように、言葉が落ちる。

「それで、どうするつもりだ」

「え?」

意味が分からず、聞き返す。

「どうする、って……」

「その男と」

淡々とした口調。

けれど、その奥に、はっきりとした苛立ちが滲んでいる。

「付き合い続けるのか」
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