思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
休日、祐樹と美術館へ出かけた。

静かな館内に足を踏み入れると、不思議と気持ちが落ち着く。

高い天井、柔らかな光、ゆっくりと流れる時間。

「千紗は、小さい頃から美術館が好きだったよね」

隣を歩きながら、祐樹が自然に言う。

「小さい頃?」

思わず聞き返すと、祐樹は一瞬だけ表情を揺らした。

「……ああ、そう言ってたから」

少しだけ言葉を濁す。

その仕草に、ほんのわずかな違和感を覚えた。

でも、それ以上追及するほどの確信はない。

「そうなんだ……」

小さく頷く。

記憶はないけれど、こうしてここに来ると、確かに心が落ち着く。

それが本当なら、祐樹の言っていることは正しいのかもしれない。

展示を見ながら、並んで歩く。

自然と、手を取られる。指が絡む。

歩幅も、私に合わせてくれている。
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