思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
「幼馴染みだからさ」

ぽつりと、そう言った。

「どこか、兄妹みたいなところはあったかもな」

「……兄妹」

その言葉が、胸に落ちる。

幼馴染み。長い時間を一緒に過ごしてきた関係。

だから、距離が近いのも、触れることに慣れているのも、きっと自然なのだろう。

恋人同士でも、そういう形はあるのかもしれない。

「……そういうもの、なんですね」

自分に言い聞かせるように呟く。

祐樹は何も言わなかった。

ただ、もう一度だけ、私の手を取る。

その手は、相変わらず温かい。

安心もする。それなのに胸の奥は、静かなまま。

何かが足りない。決定的な何かが、欠けている。

「……どうして」

小さく、零れる。

「どうして、ときめかないの……?」

その答えを、私はまだ知らない。

けれど。きっと――このままでは、いけない気がしていた。
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