思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される

第4章 心が選ぶ人

その日、私は祐樹の家を訪れていた。

「どうぞ」

鍵を開けて、自然に中へ通される。

まるで、何度も来ていた場所のように。

靴を脱ぎながら、ふとそんな感覚がよぎった。

「……お邪魔します」

リビングに入ると、落ち着いた空間が広がっていた。

シンプルで、どこか温かみのある部屋。

「適当に座ってて。すぐ準備するから」

キッチンへ向かう祐樹の背中を見ながら、私はソファに腰を下ろす。

テレビのリモコン、テーブルの上の雑誌。

どれも見慣れているようで、でも思い出せない。

不思議な感覚だった。

「千紗、手伝う?」

キッチンから声がする。

「はい」

立ち上がって、隣に立つ。

並んで野菜を切る。フライパンの音、湯気の匂い。

何気ない時間。

「……こういうの、久しぶりだな」
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