思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
祐樹がぽつりと呟く。

「え?」

「一緒に料理するの」

その言葉に、少しだけ胸が揺れた。

“前にもしていた”ということ。

それを私は、知らない。

「……そうなんですね」

笑って返す。

けれど、その奥にある空白は埋まらない。

料理ができあがり、二人でテーブルを囲む。

「いただきます」

向かい合って食べる食事は、どこか落ち着く。

味も、会話も、穏やかだった。

こういう時間が、きっと普通の恋人なのだろう。

食事を終え、片付けも終わった頃。

ふいに、祐樹が近づいてきた。

「千紗」

名前を呼ばれる。振り向いた瞬間――唇が重なる。

自然な流れだった。

抵抗もない。受け入れることも、できる。

でもやっぱり、同じだった。

――何も、変わらない。

心が、動かない。ドキドキもしない。ただ、触れているだけ。
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