思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
それ以上の感情が、どこにもない。

唇が離れる。祐樹は満足そうに微笑んでいる。

「……どうした?」

私の表情に気づいたのか、少しだけ不思議そうに聞いてくる。

「……いえ」

首を振る。うまく言葉にできない。

拒絶したいわけじゃない。嫌なわけでもない。

むしろ、安心している。それなのに。

「……大丈夫?」

「はい」

答えながら、胸の奥に手を当てる。

静かすぎる。何も、波が立たない。

当たり前のようにキスをする。

当たり前のように隣にいる。

それなのに、その“当たり前”が、どこかぎこちない。

自分の中で、何かが噛み合っていない。

「……変だな」

小さく呟く。幸せなはずの時間なのに。

どうしてこんなにも――実感が、ないのだろう。
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