思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
指示も的確に出してくれる。

でも、それ以上は、何もない。

距離を、保たれている。

まるで、線を引かれたみたいに。

「……広中さん」

同僚に呼ばれて、はっとする。

「はい」

「この資料、社長に確認お願いできますか?」

「分かりました」

書類を受け取って、社長室へ向かう。

ノックをして、中へ入る。

「失礼します」

顔を上げた社長と、一瞬だけ目が合う。

けれど、すぐに逸らされた。

「……それか」

差し出した書類を受け取ると、彼は距離を保ったまま確認を始める。

以前なら、隣に立って一緒に見ていたのに。

「……問題ない。これで進めてくれ」

「はい」

それだけ。会話は終わる。

立ち尽くしたままの私に気づいたのか、社長は顔を上げた。

「……どうした」

「いえ……」
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