思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
言いかけて、言葉を飲み込む。

何を聞けばいいのか、分からない。

どうして距離を取るのか。

どうして、こんなにも冷たく感じるのか。

聞きたいのに。聞いてはいけない気がする。

「……失礼します」

結局、何も言えずに背を向ける。

ドアへ向かう途中、背中に、視線を感じた。

振り返りたい衝動を、必死に抑える。

開けたドアの向こうへ、一歩踏み出す。

その瞬間低く、呼ばれた。

「……千紗」

足が止まる。心臓が、強く打つ。

振り返る。けれど社長はすでに、視線を落としていた。

何もなかったかのように。

「……何でもない」

短く、そう言う。

それだけそれ以上は、何も続かない。

「……はい」

小さく答えて、今度こそ部屋を出た。

ドアが閉まる。

その向こう側に、彼を残して。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

距離を取られているのに。突き放されているのに。

どうして、こんなにも――追いかけたくなるのだろう。
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