思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
気づけば、視線が向いている。

社長室のガラス越し。廊下の先。

会議室へ向かう背中。

どこにいても、自然と目で追ってしまう。

――どうしてだろう。

自分でも分かっている。

理由なんて、ひとつしかない。

「……広中」

低く呼ばれて、はっとする。

いつの間にか、社長室の前で立ち止まっていた。

ドアが開き、社長がこちらを見ている。

その視線に、逃げ場がなくなる。

「……すみません」

慌てて視線を逸らす。けれど。

「そんなに見つめないでくれ」

静かに言われて、心臓が強く跳ねた。

「……え?」

思わず顔を上げる。

新太は、わずかに眉を寄せていた。

困ったような、苦しそうな表情。

「君には恋人がいるのに」

その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。

「……それは」

否定しようとして、言葉が止まる。
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