思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
恋人。確かに、祐樹はそう言った。

私は、それを受け入れた。でも。

「……私」

気づけば、口にしていた。

「社長が……離れてしまうようで、悲しいんです」

自分でも驚くほど、素直な言葉だった。

隠そうとしていた気持ちが、そのまま零れ落ちる。

新太の目が、大きく揺れた。

「……それ以上言うな」

低く、押し殺した声。一歩、近づいてくる。

逃げられない距離。

「……君は」

何かを言いかけて、言葉を飲み込む。

その代わりに――腕を掴まれた。

「……っ」

引き寄せられる。次の瞬間、唇が重なった。

驚く暇もなかった。

強引でもなく、けれど抑えきれない想いが込められたキス。

息が、止まる。なのに胸が、強く打つ。

――違う。これ祐樹とのキスとは、全然違う。
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