思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
温かくて。深くて。

触れられた瞬間、体の奥がほどけていく。

安心する。それなのに、どうしようもなくときめく。

守られている。そんな感覚が、全身を包み込む。

唇が離れる。息が乱れる。

社長の顔が、すぐ近くにある。

「……俺を、見ないでくれ」

苦しそうに、そう言う。

「これ以上、理性が持たない」

その言葉が、胸に落ちる。

私は、何も言えなかった。

ただ、はっきりと分かってしまった。

――ああ。私、この人と一緒にいたい。

記憶なんてなくても。過去なんて知らなくても。

この人のそばに、いたい。

その気持ちだけが、確かだった。

あの日のキスが、頭から離れなかった。

触れられた瞬間の、あの感覚。

安心と、ときめきが同時に押し寄せてくるような。

あんなキス、知らない。

知らないはずなのに。
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