思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
体だけが、覚えているみたいだった。

「……はぁ」

気づけば、ため息が漏れる。

給湯室でお湯を沸かしながら、ぼんやりと窓の外を見つめる。

ガラスに映る自分の顔は、どこか上の空だった。

――ダメだ。

こんなこと、考えちゃいけない。

私には、祐樹がいる。恋人だと言ってくれた人。

ちゃんと向き合わなきゃいけない相手。

それなのに。

「……社長」

無意識に、その名前を口にしてしまう。

また、ため息が落ちる。

どうしてこんなに、気になってしまうのだろう。

どうして、あの人のことばかり考えてしまうのだろう。

「……ため息ばかりだな」

背後から、低い声がした。

「……っ」

振り返るよりも早く、腕を取られる。

そのまま、引き寄せられた。

「……社長」

後ろから抱きしめられる。

背中に触れる体温。
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