思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
一瞬で、心臓が跳ね上がる。

離れなきゃいけないのに。

分かっているのに。体が、動かない。

「まるで、俺に恋してるみたいだ」

耳元で、囁かれる。低くて、抑えた声。

「……違います」

否定しようとする。でも、声が震える。

自分でも分かっている。

その言葉に、説得力がないこと。

「本当に?」

少しだけ、腕に力がこもる。逃げ場がなくなる。

「……私は」

言葉が、出ない。理屈では分かっている。

祐樹がいる。私は、彼女だ。

だから、こんなこと――

「いっそ、俺に乗り換えたらどうだ」

その一言に、思考が止まる。

「……え?」

信じられない言葉だった。

軽く言っているようで、全然軽くない。

真っ直ぐで、逃げ場のない言葉。

「困る、か?」

少しだけ低くなる声。試すような、問いかけ。
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