思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
「……そんなこと」

できるはずがない。

そう言おうとするのに。どうしても、言葉が続かない。

否定しなきゃいけないのに。否定、できない。

胸の奥が、答えを知っている。

「……ずるいです」

やっと出た言葉は、それだった。

新太は何も言わない。

ただ、腕の中で私を閉じ込めたまま、その温もりに、抗えない。

理屈ではダメだと分かっているのに。

感情が、それを上書きしていく。

「……私」

小さく呟く。

「どうしたらいいか、分からない」

それが、本音だった。

理屈と感情が、ぐちゃぐちゃに絡まっている。

どちらを選べばいいのか、分からない。

でもひとつだけ、確かなことがある。

この人の腕の中にいると――離れたくないと思ってしまう。
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