思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
その日、私は理由もなく残業をしていた。

やるべき仕事は、もう終わっている。

それでも帰ろうとしないのは――

「……少しでも」

小さく呟く。少しでも、長くここにいたい。

少しでも、あの人のそばに。

そんな気持ちを、否定できなかった。

社長室のドアは、少しだけ開いている。

中を覗くと、社長がデスクに向かっていた。

真剣な横顔。

その姿を見ているだけで、胸が締めつけられる。

すると。

「……広中」

顔を上げた社長が、こちらに気づいた。

そして、指先で軽く手招きをする。

「……はい」

引き寄せられるように、私は中へ入った。

デスクの前まで近づいた瞬間、腕を取られる。

「……っ」

そのまま、引き寄せられ――

気づけば、新太の膝の上に座らされていた。

「しゃ、社長……」

驚いて声が震える。
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