思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
けれど、逃げようとした体は、しっかりと支えられていた。

「見つめてくるわ、ため息はつくわ……」

低く、耳元で囁かれる。

「今度は、一緒にいたいか」

言葉を失う。図星だった。全部、見抜かれている。

「……違います」

顔を背ける。否定しなければいけない。

そう思うのに、声に力が入らない。

「認めろ」

すぐに、顎に指をかけられて顔を戻される。

逃げ場のない距離。

「俺を好きだって」

真っ直ぐな視線。強くて、揺るがない目。

「……うっ……」

言葉が詰まる。否定したいのに。

できない。心が、もう答えを出している。

「愛してやる」

低く、はっきりと告げられる。

「千紗の全部、俺のものにしてやる」

その言葉に、胸が強く打つ。

ドキドキが、止まらない。
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