思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される

第5章 偽りの夜

夕方、スマートフォンが震えた。

――祐樹からのメール。

『今夜、改めてプロポーズしたい』

その一文に、指が止まる。プロポーズ。

頭の中で、その言葉が何度も繰り返される。

三年付き合っていたという彼。

結婚の話も、していたという。

それなら――自然な流れ、なのかもしれない。

胸が、ざわつく。

嬉しいはずなのに。

どこか、落ち着かない。

その時だった。

「広中」

低い声に呼ばれる。

顔を上げると、社長室のドアが開いていた。

「少し来い。この資料だが……」

呼ばれるままに、中へ入る。

書類を差し出される。説明が始まる。

けれど内容が、頭に入ってこない。

さっきのメールが、頭から離れない。

プロポーズ。結婚。祐樹。
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