思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
自分に言い聞かせるように。

そう言った。その瞬間。

「断れ!」

鋭い声が、室内に響いた。

「……っ」

驚いて、体が震える。

次の瞬間、腕を掴まれていた。

強く、引き寄せられる。

「結婚なんて、断れ」

低く、押し殺した声。

けれど、その奥には抑えきれない感情が滲んでいる。

「……でも」

言葉が続かない。

断る理由なんて、ないはずなのに。

「……行くな」

その一言に、息が詰まる。

逃げ場のない距離。

真っ直ぐに見つめられる。

どうして、そんな顔をするのだろう。

どうして、そこまで――

「……俺がいるだろ」

その言葉に、心臓が強く打つ。

理屈が、崩れていく。

正しいはずの選択が、揺らぐ。

分かっている。分かっているのに。

腕を掴まれたまま、私は動けなかった。
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