思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
「俺は、頼りなかったかもしれない」

少しだけ、抱きしめる力が強くなる。

「でも、誰よりも君を愛しているんだ」

「……え?」

思考が止まる。

今、何を言われたのか理解が、追いつかない。

腕の中から顔を上げる。

社長が、まっすぐに私を見つめていた。

逃げも隠れもしない、真剣な目。

「愛してるんだ、千紗」

はっきりと、告げられる。

その言葉が、胸の奥に深く落ちていく。

――ああ。私、この人が好きだ。

はっきりと、分かってしまった。

「……社長」

気づけば、私は彼を抱きしめていた。

ぎゅっと、強く。離したくないと、思ってしまうほどに。

「ありがとうございます」

自然と、言葉がこぼれる。

長い片想いが、やっと届いたような気がした。

胸がいっぱいになる。それなのに。
< 65 / 89 >

この作品をシェア

pagetop