思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
「……どういうこと?」

思わず問い返す。理解が、追いつかない。

好きな人がいるのに、それでもいいなんて。

そんなの――

「いいんだよ」

遮るように言われる。

「一緒にいられれば、それでいい」

その言葉に、胸がざわつく。

何かが、おかしい。優しいはずなのに。

どこか、歪んでいる。

その違和感を振り払うように、祐樹はポケットから小さな箱を取り出した。

「……これ」

開かれる。中には、指輪が入っていた。

息が止まる。

「……千紗」

名前を呼ばれる。

そのまま、手を取られた。

「待って……」

止めようとした瞬間すでに、指に触れられていた。

するりと、薬指に収まる。

「……っ」

外そうとする指に、力が入る。でも、うまく動かない。

「似合ってる」

祐樹が、満足そうに笑う。
< 68 / 89 >

この作品をシェア

pagetop