思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
その笑顔が、なぜか遠く感じた。

「今夜、部屋を取ってある」

その言葉に、心臓が大きく跳ねる。

「……え?」

見上げる。逃げ場のない距離。

「結婚するんだから」

当然のように、言う。

「受け入れてくれるよね」

その一言に、息が詰まる。

優しいはずの声。

でも、そこには選択肢がなかった。

断る余地なんて、最初から用意されていない。

言葉が出ない。指にはめられた指輪が、重く感じる。

逃げたい。でも、動けない。

このまま流されてしまえば。

全部、決まってしまう。

そんな予感が、胸の奥で強く膨らんでいた。

「聞いて、祐樹」

震える声で、私は言った。

指に嵌められた指輪が、重く感じる。

このままではいけない。

そう、はっきりと分かっていた。
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