思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
退院して数日後、私は職場へと足を運んだ。

高層ビルのエントランスを見上げながら、小さく息を吐く。

ここが――私の働いていた場所。

覚えていないはずなのに、どこか懐かしいような気がした。

「無理はしなくていい」

隣を歩く光林社長が、低い声で言う。

「まずは、できることからでいい」

「はい……ありがとうございます」

緊張で少しだけ声が硬くなる。

エレベーターに乗り、静かに上昇していく時間が、やけに長く感じた。

やがて扉が開き、オフィスフロアへと足を踏み入れる。

社員たちの視線が、一斉にこちらへ向いた。

――ああ、この人たちは、私を知っている。

その事実が、胸をざわつかせる。

「広中さん、おかえりなさい」

「無理しないでくださいね」

次々とかけられる言葉に、私はぎこちなく頭を下げた。
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