思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
名前を呼ぶ。

けれど、それ以上の言葉が見つからない。

祐樹は、小さく笑った。

「いいよ」

軽く手を振る。

「最初から、分かってたことだし」

そう言いながら、立ち上がる。

椅子が、わずかに音を立てた。

「後は、お二人で」

その言葉を残して、背を向ける。

振り返ることなく、店を出ていった。

扉が閉まる音が、静かに響く。

残されたのは、私と社長。

そして――もう、隠しようのない真実だった。
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