思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
ただ、その光景が、心の奥に広がっていく。

「でも」

新太の声が、現実へと引き戻す。

「それが、会長に知られた」

空気が、重くなる。

嫌な予感がする。

「親父は、許さなかった」

低く、静かに。

けれど、はっきりとした言葉だった。


ー 秘書との結婚なんて、許せるか!

低く響く怒声。

その場にいなくても、はっきりと想像できるほどの圧だった。

ー 俺が選んだ人だ

それに対して、社長は一歩も引かなかった。

ー おまえの結婚相手は、取引先のご令嬢だ

冷たく言い放たれる言葉。

決めつけるような声。

まるで、感情など存在しないかのように。

「……そして」

社長の声が、少しだけ重くなる。

「親父は、あろうことか千紗の家に行った」

「……え?」

思わず息を呑む。

「俺との結婚を、諦めてほしいと」
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