思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
息が止まる。

「交通事故に遭ったと聞いたのは、その直後だ」

低く、押し殺した声。

後悔が滲んでいた。

何も言えなかった。

言葉が、出てこない。

自分の知らない過去が、次々と繋がっていく。

胸の奥が、ひどく痛む。

「……俺は」

社長が、ゆっくりと続ける。

「ご両親に、申し訳が立たなかった」

その言葉は、重かった。

「だから……見守ることにしたんだ」

視線を落とす。

「これ以上、関わるべきじゃないと思った」

その選択が、どれほど苦しかったのか。

今なら、分かる。全部、私のためだった。

それなのに、私は何も知らずに――

「……どうして」

小さく、呟く。

「どうして、そんな……」

言葉が、続かない。

胸の奥に、溢れそうなものがあった。
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