思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
知らなかった。何もかも。

こんなにも、想われていたことも。

こんなにも――守られていたことも。

「千紗」

静かに呼ばれる。

その声に、自然と顔を上げた。

「……でも、もう俺は迷わない」

真っ直ぐに見つめられる。

揺るぎのない瞳。

さっきまでとは違う、はっきりとした決意がそこにあった。

「社長……?」

「さっきの言葉が、俺を奮い立たせてくれた」

一歩、距離が縮まる。

逃げることも、逃げたいとも思わなかった。

「……好きな人がいるって言ったことですか?」

小さく問いかける。

すると、社長はゆっくりと頷いた。

「ああ」

そのまま、腕を引かれる。

気づけば、抱きしめられていた。

強くもなく、でも確かに離さないと伝える抱擁。
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