思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
思わず、息を呑む。

その手には、小さな箱が握られていた。

「これは……」

開かれる。中には、指輪が入っていた。

さっき祐樹から見せられたものとは違う。

もっと、重みのある輝き。

「……この指輪」

驚きで言葉が途切れる。

新太さんは、まっすぐに私を見上げた。

「事故の前から、用意していた」

静かに告げる。

その一言で、胸が強く締めつけられる。

「俺は、あの頃から決めていたんだ」

言葉を選ぶように、ゆっくりと。

「千紗と、結婚したいって」

――いつか、結婚しような、千紗。

ふいに、あの声が蘇る。

温かくて、優しかった記憶。

はっきりとは思い出せないのに。

確かに、そこにあったと分かる。

「……新太さん」

名前を呼ぶと、涙が滲んだ。

「記憶なんてなくてもいい」
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