思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
新太さんの表情が、ゆっくりと揺れる。

そして――優しく、唇が重なった。

触れるだけの、静かなキス。

でも、その奥にある想いは深くて温かい。

「……俺も」

少しだけ離れて、低く囁く。

「もう千紗は戻らないと思った」

その言葉に、胸が締めつけられる。

同時に、涙が滲んだ。

「……ごめんなさい」

小さく呟く。

「でも」

新太さんを見つめる。

「結局、私の心は……あなたのものだった」

迷いのない言葉だった。

記憶がなくても。離れても。

選んだのは、同じ人。

その事実が、何よりも確かだった。

「……俺もだ」

新太さんが、そっと私を抱き寄せる。

腕の中に包まれると、すべてが満たされていく。
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