完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「秀吉に仕えた、有名な武将だ。知的で、忠誠心の高い男だった」

「そうなんですか……それが、何か?」

「お前も石田だろ。俺は『はしば』で、お前が『いしだ』だ……」

「な、なるほど。私は橋場さんに、仕えるべくして仕える運命なんですね」

「……まあ、ただの偶然だが。俺のやる気が上がったのは、確かだな」

 ……あれ?
 橋場さんって……意外と、可愛いところがある。
 きっと沖浦さんから私の担当を頼まれた時も、『石田』という苗字を見て、密かにテンションが上がったんだろう。
 そう思うと、ニヤニヤが止まらない。

「……何を笑っている?」

「い、いえ! 何でもありません! 橋場さんの優秀な側近になれるよう、精一杯頑張ります! 知的さには自信ありませんが、忠誠心なら任せてください!」

「……すまん。余計な話をしてしまったな。じゃあ、もう一度テーブルへ」

 橋場さんの後ろを歩きながらも、私のニヤニヤは止まらない。
 真剣な表情でダイニングテーブルに腰を下ろす橋場さんを見て、慌てて気を引き締めた。

「この家に居候する目的や理由は、もう理解しただろう。次は……肝心なルール決めに入る」

「ルール……ですね」

「まず一つ目。朝ご飯は、必ず食べろ」

「え、必ずですか?」

「ああ。朝食べないと、いいパフォーマンスは出せない。いいな?」

「……は、はい」

 えぇ……。
 ギリギリまで寝ていたいのに……。
 覚悟はしていたけど……やっぱり私にとっては厳しいルールだ。

「二つ目。毎日掃除をする」

「えっ!? 毎日ですか?」

「そうだ。とはいっても、家全体を毎日掃除しろと言っているわけじゃない。曜日ごとに、やる場所を決める」

「……というと?」

「月曜日は風呂掃除、火曜日はキッチン、水曜日は玄関……といった具合だ」

 仕事で疲れて帰ってきて、その上さらに掃除。
 そんな体力、私にあるだろうか……。
 今から不安しかない。

「当然、掃除以外にも毎日やることはある。食事の準備や後片づけ、ゴミ捨てとかな」

「う……まるで、花嫁修業……」

「まあ、そんなところだろう。お前のズボラさが直らない限り、いい仕事もできないし……いい男だって寄ってこないぞ」

「……かしこまりました」

 厳しすぎるとは思うけど……タダで居候させてもらっている身として、こなしていかないといけない。
 少なくとも橋場さんは、私のことを想って課題を与えてくれている。
 これも仕事の一環だと思えば、何とかやれそうな気がしてきた。

「そして、三つ目」

「……まだあるんですか?」

「これで最後だ。貯金はきちんとしておけ」

「貯金? それがルール?」

「ああ。いつまでもこの家に置いておくわけにはいかないだろう。独り立ちできる状態まで成長した時、すぐに出ていけるように……貯金しておけ、ということだ」

「わ、わかりました……」

 橋場さんは、皮肉めいた調子で「さすがに金の管理まではできないからな」と呟いた。
 それはそうだと、心の中で頷く。

 それにしても……ここまで、きっちり決められるとは。
 でも、これを守らないと……ご飯を与えてもらえないかもしれない。

 まるで、本当に飼われているみたいだ。
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