完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「まず、家賃も生活費も何も払わなくていい。お前は本当に、ただの居候だ」

「それ……橋場さんに何のメリットがあるんです?」

「待て、まだ続きがある。その代わり、ちゃんとした大人になってもらう。それが俺のメリットだ」

「え……私のズボラさを改善することが、橋場さんのメリットに?」

「俺はチームの成長を一番に考えている。つまりお前の成長が、俺にとって一番の恩返しになる」

 ……なるほど、とは……言えなかった。
 どんなに仕事人間だとしても、部下一人を居候させるなんて……コストがかかりすぎている気がする。

「それほど、お前に期待しているってことだ」

「……本当ですか」

「ああ。沖浦編集長から、お前の話を嫌というほど聞いた。すごくもったいないと言っていた。お前の適当さ、そのズボラさを変えてほしいんだと……」

「沖浦さん……そんなことを……」

 つまり、私の人間的な成長を、沖浦さんは本気で期待しているということか。
 だから橋場さんは、初対面の私にここまで踏み込んだ提案を……。

「……それにしても、居候までさせることになるとは思わなかったがな」

「橋場さんが提案したんですよ?」

「家がない部下を放っておけるほど、冷酷じゃない。それに……一緒に住んだ方が、手っ取り早い」

「……鍛えやすいってことですね」

「そうだ。それに……」

「それに?」

「お前も、彼を振り向かせたいんだろ?」

 予想外の発言に、ドキッとする。
 心から私のためを想って、橋場さんはこの提案をしたんだ……。

「そのためにもやっぱり、ズボラ女子からの卒業は必要だ」

 この居候生活は……橋場さんのためにも、私のためにもなる。
 締めつけられる生活は本望ではないけれど……仕方ない。
 生きていくために、今は従うしかないわけだし……とりあえず、頑張ってみよう。

「橋場さん、よろしくお願いします!」

「ふん、威勢がいいな」

「はい。気持ちの整理が……ついたような気がします」

 そう答えてきっちりと頭を下げる私の頭上から、「ふふ」という軽い笑い声が落ちてくる。
 顔を上げると、橋場さんはどこか不気味な笑みを浮かべて、私を見ていた。

「な、何ですか? 橋場さん、もう怖いんですけど?」

「……お前、戦国武将は好きか?」

「え? 戦国武将?」

「ああ。こっちに来い」

 リビングの仕切り扉を開けると、その奥にはこれまた広い寝室があった。
 大きなベッドにクローゼット。そして角には、木製のオシャレなローチェスト。

「これ、見てくれ」

「……これは……豊臣秀吉の、グッズ?」

 戦国武将・豊臣秀吉のフィギュアに、家紋入りの扇子。
 他にもゲームやクリアファイルが、綺麗に並べられている。

 橋場さん、豊臣秀吉が好きなんだ……。
 何だか……意外だな。

「漢字は違うが、秀吉も『はしば』を名乗っていた。それを知ってから、すっかりファンになってな」

「は、はあ……そうなんですか」

「お前、石田三成を知っているか?」

「石田光成? 歴史の授業で習ったことはありますけど……誰でしたっけ?」

 そう質問すると……橋場さんは目を輝かせながら、声のトーンを上げて話し出した。
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