完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「ジャガイモの様子を見つつ、タマネギを炒める……」
こんなに手際よく……私にできる日が来るんだろうか。
二つのコンロを同時に使いながら、淡々と作業を進めていく橋場さんを見ていると、自己嫌悪に陥りそうになる。
それでも成長すると決めたんだから……目を逸らさず、しっかり見ておかないと。
「うん、いい感じだな。じゃあ、ジャガイモは一旦ザルに上げて、水気を取る。タマネギは……もう少しだな。キツネ色になるまで炒める」
私に説明しているのか、それとも独り言なのかはわからない。
とにかく、わかったフリをしながら何度も頷いてみた。
それにしても橋場さん、どうしてこんなに料理が上手なんだろう。
炒める音だけが響く時間が少し続いたので、タイミングを計って聞いてみることにした。
「あの……橋場さんって、誰から料理を教わったんですか?」
「……まあ、独学だな」
「独学!? すごいですね……」
感心しながらフライパンの上を見ていると、橋場さんはふっと小さく息を吐いた。
動かしている方とは逆の手を腰に当て、神妙な面持ちで話し始める。
「昔から、あまり親が家にいなくてな。妹もいたし、自然とキッチンに立つようになった」
その声色で、複雑な事情があったのだと推測することができた。
少しだけ親近感の湧いた私も、橋場さんと同じトーンで言葉を返す。
「家庭の事情か……すごく、理解できます」
橋場さんの視線が、フライパンから真剣な表情で答えた私の顔に移る。
すぐに目が合うと、橋場さんの眉根が寄っているのがわかった。
「え……私、何か言いました?」
「い、いや……石田にも、いろいろあったのかと思って」
橋場さんの憂いを含んだ目を……まさか見ることになるなんて。
今までの冷ややかな表情からは想像ができなかったので、何だか気が楽になった。
わずかに見せてくれた優しさに甘えて、思わず自分の話をしてしまう。
「私は……厳格な両親に育てられました。特に母が厳しくて、ずっと縛りつけられて生きてきたんです」
「……権威主義的な、母親ってことか」
「そうです。門限も厳しいし、食べるものも、テレビを見るのも制限されて……まるで支配されているみたいでした。きっと、周りからの目が怖かったんだと思います」
「良い親と、優れた子どもだと思われたい……そうやって、周囲からの評価を気にしたんだな」
私はコクリと、頷いた。まさに、その通りだ。
機械のように生きていたあの時代……母の口癖は「勉強だけしていなさい」だった。
自分の成績以外は気にしなくていい。それ以外は、母の言う通りにしておけばいいと、そうやってコントロールされていた。
「それで私……高校三年生の時に、我慢できなくなって」
「どうしたんだ?」
「大暴れしました。家の中にある物を、全部壊す勢いで……」
今思うと……あの瞬間ほど、自分を見失ったことはない。
十八歳になってまで、母の言いなりになっていることに限界がきて……自分をコントロールできなくなった。
テーブルの上の皿を全部投げ、花瓶や置き物も全部壊した。
「それがきっかけで、それまで母の抑圧を黙って見ていた父が、事態を重く見始めて……」
「遅すぎるな。さすがに放っておきすぎだ」
「父は放任主義でした。物静かで、ずっと仏頂面で……高圧的な感じ? です。子育てについては、母に丸投げだったみたいで」
そして……大学進学を機に、東京で一人暮らしをすることになった。
実家のある群馬からでも通えなくはない大学だったけど、父がそれを望んだ。
きっと、見放したかったんだと思う。
急に大暴れするような危険分子を、家に置いておきたくなかったのだ。
それから親とは連絡を取り合うのも最低限になり、分厚い壁ができてしまった……。
こんなに手際よく……私にできる日が来るんだろうか。
二つのコンロを同時に使いながら、淡々と作業を進めていく橋場さんを見ていると、自己嫌悪に陥りそうになる。
それでも成長すると決めたんだから……目を逸らさず、しっかり見ておかないと。
「うん、いい感じだな。じゃあ、ジャガイモは一旦ザルに上げて、水気を取る。タマネギは……もう少しだな。キツネ色になるまで炒める」
私に説明しているのか、それとも独り言なのかはわからない。
とにかく、わかったフリをしながら何度も頷いてみた。
それにしても橋場さん、どうしてこんなに料理が上手なんだろう。
炒める音だけが響く時間が少し続いたので、タイミングを計って聞いてみることにした。
「あの……橋場さんって、誰から料理を教わったんですか?」
「……まあ、独学だな」
「独学!? すごいですね……」
感心しながらフライパンの上を見ていると、橋場さんはふっと小さく息を吐いた。
動かしている方とは逆の手を腰に当て、神妙な面持ちで話し始める。
「昔から、あまり親が家にいなくてな。妹もいたし、自然とキッチンに立つようになった」
その声色で、複雑な事情があったのだと推測することができた。
少しだけ親近感の湧いた私も、橋場さんと同じトーンで言葉を返す。
「家庭の事情か……すごく、理解できます」
橋場さんの視線が、フライパンから真剣な表情で答えた私の顔に移る。
すぐに目が合うと、橋場さんの眉根が寄っているのがわかった。
「え……私、何か言いました?」
「い、いや……石田にも、いろいろあったのかと思って」
橋場さんの憂いを含んだ目を……まさか見ることになるなんて。
今までの冷ややかな表情からは想像ができなかったので、何だか気が楽になった。
わずかに見せてくれた優しさに甘えて、思わず自分の話をしてしまう。
「私は……厳格な両親に育てられました。特に母が厳しくて、ずっと縛りつけられて生きてきたんです」
「……権威主義的な、母親ってことか」
「そうです。門限も厳しいし、食べるものも、テレビを見るのも制限されて……まるで支配されているみたいでした。きっと、周りからの目が怖かったんだと思います」
「良い親と、優れた子どもだと思われたい……そうやって、周囲からの評価を気にしたんだな」
私はコクリと、頷いた。まさに、その通りだ。
機械のように生きていたあの時代……母の口癖は「勉強だけしていなさい」だった。
自分の成績以外は気にしなくていい。それ以外は、母の言う通りにしておけばいいと、そうやってコントロールされていた。
「それで私……高校三年生の時に、我慢できなくなって」
「どうしたんだ?」
「大暴れしました。家の中にある物を、全部壊す勢いで……」
今思うと……あの瞬間ほど、自分を見失ったことはない。
十八歳になってまで、母の言いなりになっていることに限界がきて……自分をコントロールできなくなった。
テーブルの上の皿を全部投げ、花瓶や置き物も全部壊した。
「それがきっかけで、それまで母の抑圧を黙って見ていた父が、事態を重く見始めて……」
「遅すぎるな。さすがに放っておきすぎだ」
「父は放任主義でした。物静かで、ずっと仏頂面で……高圧的な感じ? です。子育てについては、母に丸投げだったみたいで」
そして……大学進学を機に、東京で一人暮らしをすることになった。
実家のある群馬からでも通えなくはない大学だったけど、父がそれを望んだ。
きっと、見放したかったんだと思う。
急に大暴れするような危険分子を、家に置いておきたくなかったのだ。
それから親とは連絡を取り合うのも最低限になり、分厚い壁ができてしまった……。