完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「……だ、大丈夫です! キャベツと一緒に食べるので!」

「さすがにしょっぱいだろ。焦って食べてもいいことはないぞ」

「……はい、気をつけます」

 こういうこと、光市と一緒に暮らしていた時は日常茶飯事だった。
 光市はきっと、こういうドジなところも嫌だったんだろうな……。
 今になって、少しだけ反省する。

 そんなことを考えていたら、箸が勝手に沢庵を掴んでいた。
 無意識に、口の中の味を切り替えたくなったのかもしれない。

「え、この沢庵……すごく美味しい……」

「……だろ。地元のスーパーで売ってるやつなんだが、俺も妹も大好物でな。親戚からよく送られてくるんだ」

「そうなんですか。橋場さんの地元って、どちらなんですか?」

「……北海道だ」

「北海道!? どうりで肌が白いわけですね! あ、だからジャガイモが送られてきたんだ……」

 橋場さんは、無駄のない丁寧な所作で箸を動かしている。
 私の言葉にも、咀嚼を終えてから小さく「まあな」と返すだけだ。
 薄い反応をされてしまったので、私も無駄口を叩くのをやめて食事に集中することにした。

 不思議なことに、食べることに集中し始めた途端、さっきよりもずっと美味しく感じた。
 気づけば、お腹はすっかり満たされている。

「はあ……大満足です」

「それは良かった。じゃあ、皿を下げるか……」

 あぁ……いい気持ちだ……。
 お腹が一杯で、体が動く気がしない。
 ボーっと斜め上を見つめていたら、じわじわと眠気が押し寄せてきた。

「石田、何をしている?」

「え、あ、ちょっと一服を……」

「上司が立っているんだぞ? お前も動かないとダメだろ」

「あ……はい」

 ……あれ。
 橋場さん、急にスイッチが入った気がするんだけど……。

「キビキビ動け。洗い物はお前がやるんだ」

「は、はい!」

 なるほど……。
 橋場さんって、突然こういう指導モードに入るタイプなんだ……覚えておこう。
 厳しい指導をするとは言っていたし、これくらいで驚いてはダメだ。
 これから一緒に暮らすんだから、徐々に理解していかないと。

 袖を捲り、泡立てたスポンジを手に取る。
 茶碗や皿を、見よう見まねでゴシゴシと洗っていく。

 そして、隣には……。
 まるで鬼教官のように、じっとこちらを見張る橋場さんの姿があった。

「……ここ、まだ汚れが落ちていない。茶碗は米がこびりつきやすいから、そこを意識して洗え」

「了解です……」

 洗い物なんて、正直ほとんどやったことがない。
 光市と暮らしていた時……一度だけ私がやったことがあった。その時は洗い残しが目立って、微妙な空気になったのを覚えている。
 あの時、光市は笑いながら「俺がやるからいいよ」って言ってくれたけど……。
 本当は、内心げんなりしていたんだろうな。

「石田、わかるか?」

「……え、何がですか?」

「お前が今までやってこなかった家事。その裏側では、誰かが代わりにやってくれていたってことだ」

「……そう、ですね」

 スポンジを動かしながら、小さく息を吐く。

「今、すごく実感しています」
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