完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】

第三話 発展途上

 ゆっくりと目を開けると、そこは見慣れない空間だった。
 上半身を起こし、反射的に部屋の中を見渡す。背中に鈍い痛みが走り、布団で眠っていたのだと遅れて気づいた。

「あ……そっか。昨日から橋場さんの家に……」

 嫌な予感が胸をよぎり、慌ててスマホの画面を点ける。
 分刻みでアラームをセットしておいたはずなのに……全部止めてある。
 これだけ準備しても、起きれなかったってことか……。

 肝心の時間は……。

「え!? あ、やばっ!!」

 本当は余裕を持って七時に起きるつもりだったのに、時計の表示はまさかの八時。
 橋場さんの家から会社までは電車で一駅、歩いても二十分ほどだ。近いとはいえ、この生活に慣れるまでは早起きしようと思っていたのに……。

 とにかく、今はすぐ行動しないと。

「お、おはようございます!」

 すっぴんのまま、慌ててリビングに飛び込む。
 すると、すでにスーツ姿で出勤準備万端の橋場さんが、ダイニングで優雅にコーヒーを口にしていた。

「いきなり寝坊とは、いい根性だな」

 鋭い眼光と視線がぶつかり、思わず顔を覆ってしまう。
 こんな素の姿を見られるなんて……恥ずかしすぎる。

「朝飯を用意する。その間に顔を洗ってこい」

「え、そんな暇……ないと思うのですが……」

「軽くでいい。お茶漬けでいいな?」

「は、はい!」

 言われた通りにしないと……。
 高速で顔を洗う。この流れを予期していたのか、洗顔フォームとタオルが最初から洗面台に用意されていた。

「すいません! 終わりました!」

「ああ、こっちも完成だ。しらすと梅干しの出汁茶漬けだ。サッと食べていけ」

「え、朝からこんな贅沢な……」

「何、簡単だぞ。しらすと梅干しをご飯に乗せて、出汁をかけるだけだ」

 橋場さんはさらっと言うけれど、私には朝からこんなこと、できる気がしない。
 というか、作ろうという発想すら浮かばない……。

「い、いただきます!」

 とはいえ、時間がない。
 私は急いで梅干しをほぐし、茶碗に口をつけて豪快にかき込んだ。
 その様子を見た橋場さんが、くっと小さく笑う。

「喉、詰まらせるなよ」

 私は無我夢中でかき込みながらも頷き、ものの三分で平らげた。
 こんなに急いで食べたのに、不思議と美味しさはしっかり伝わってくる……。

「石田。これ、この家のルームキーだ」

「え……?」

「このマンションはオートロックだが、一応渡しておく。俺は先に行くからな」

「わ、わかりました! 私もすぐ向かいますので!」

「……ったく。明日からは早起きするんだぞ」

「肝に銘じます!」

 橋場さん……意外と優しかったな……。
 って、感心してる場合じゃない。
 私は慌ててキッチンに茶碗を運び、シンクに置く。

 次は化粧……。
 仕方ない。もう適当でいいや。今日は目元だけにして、あとはマスクで誤魔化そう。

 時計を見ると、時刻は八時二十分。始業は九時。
 最低でも八時四十分には家を出ないと間に合わない。
 今日はこの際、タクシーを使おう。
 それなら八時四十五分に出ても、間に合うはず。

 化粧ポーチを手に取りながら、頭の中で必死に時間を逆算していた。
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