完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
 私と橋場さんしかいない、『いくぐるめ』の島。
 淡々とキーボードを叩く音だけが響いている。

 書き起こしたインタビュー内容に、自分なりの印象や言葉を重ねて、記事として形にしていく……。
 これはラーメン班の頃からずっとやってきた作業で、文章を書くこと自体にはそれなりに自信があった。

 ……ただし。

 今までは勢い任せで書き進めてしまう癖があり、誤字脱字の多さを江本さんに笑われることも少なくなかった。

 初稿――いわゆるゲラとはいえ、それ以前の問題だろというレベルの書き間違いも多く、修正点が山ほど出るのが私の悪いところ。
 もっと最初の段階から、綺麗な文章を意識すること……それは江本さんだけじゃなく、沖浦さんにも何度も言われてきた。

「……ちゃんと書けてるかな」

 ラーメン班の頃より、明らかに書くスピードは落ちている。
 でもその分、今までよりはマシな文章になっている……はず。
 何度も何度も読み返し、誤字や抜けがないかを確認する……。

「……おい、石田ってば」

「うわっ、びっくりした!」

 肩をトンと叩かれて、思わず体が跳ねる。
 あまりにも大袈裟な反応をしたせいで、橋場さんの方が驚いた顔をしていた。

「すまん、驚かせるつもりはなかった。何度呼んでも反応しないから」

「え? 呼んでました?」

「ああ。そろそろ昼飯に行かないかって」

 え……もうそんな時間?
 時計を見ると、時刻は十二時を少し過ぎていた。
 気づいた瞬間、遅れていた空腹感が一気に押し寄せてくる。

「社食、行くぞ」

「……了解です!」

 私はこれまで、取材とリサーチを兼ねて都内のラーメン屋を巡るか、時間がない日はカップラーメンで済ませるかだった。
 だから、一度も社食を利用したことがない。 

「ここの社食は、栄養バランスの取れた健康レシピが多いと聞いている。午後からもしっかり働けるように、きちんと食べるぞ」

「わ、わかりました……」

 まだ少し早い時間帯なのか、列はそれほど長くない。
 アルコール除菌を済ませ、トレイを手に取る。
 目の前には、副菜用の小鉢がずらりと並ぶコーナーと、その奥にメインのおかずのカウンターが。

「栄養バランスを考えて取るんだぞ?」

 前を歩いていた橋場さんが、振り返って念を押すように言った。
 そのまま小鉢を二つ、手際よくトレイに乗せる。
 ほうれん草のごま和えと、中華春雨サラダ、かな?
 よし、私もそれにならって……。

「ん? いいチョイスだな」

「あ、ありがとうございます!」

 私が選んだのは、白菜の煮浸しときんぴらごぼう。
 メインのおかずコーナーへ向かう前に、わざわざもう一度確認されたらしい。

「じゃあ、メインは……」

 橋場さんはカウンターの従業員に、「きのこと豚肉の甘辛炒め」を注文する。
 どうやらメインは、注文後に温かいものを用意してくれる仕組みらしい。
 同じものにしようか、一瞬迷ったけれど……。

「チキン南蛮にしよっと」

 注文を済ませ、白米と味噌汁を受け取る。
 流れに身を任せて会計を終え席に着いたところで、橋場さんと私の番号が呼ばれた。

 メインのおかずも受け取り、栄養バランスばっちりの最高の定食が完成した……。
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