完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】

第五話 確かな成長

 ――執筆した内容の校正、それに別の企画や雑務など……橋場さんの指示通りに動きながら、毎日をこなしていった。
 文章に関しては、やはり橋場さんからの細かい指摘が多く、形になるまで相当な修正がかかった。
 凹んだり、時には手ごたえを掴んだり……感情が忙しい日々だったけど……ようやく今日、校了の日を迎えている。

「ええ? これ、石田さんが書いたの!?」

 印刷前の最終チェック中、ラーメン班の江本さんが、私の記事を読みながら目を丸くしている。
 オムハヤシの記事は、橋場さんの修正に関するアドバイスが大きかったとはいえ、ほとんど自力で書き紡いだ。

 ラーメン班にいた頃は……私が書いたとしても、結局は江本さんの修正が入りすぎて原型がなくなるのが常だった。
 それを思えば、これは明らかな進歩だ。
 江本さんだけでなく、周囲のメンバーからも小さなどよめきが起こる。

「私だって……やる時はやりますよ」

 唇を尖らせてそう言うと、沖浦さんが私のデスクまで来て、「この調子でね」と肩に軽く手を置いた。
 その反応に、今までの私がどれだけ低く見られていたのかを、否応なく実感させられる。

「橋場君、引き続きお願いね」

 次に声をかけられた橋場さんは、いつも通りクールに、どこか素っ気なく「はい」と頷いた。

「石田、これくらいの文章、書けて当たり前だからな。調子に乗るなよ」

「わ、わかってますよ!」

 みんなの前で言われると、ついムキになってしまう。
 もっとも、最近は家でも似たようなやり取りばかりだ。
 橋場さんと一緒にいることに慣れてきたのか、以前のような緊張感はなくなっている。
 その代わり、こうして弄られた時には、ちゃんと反論できるようになっていた。

「それじゃあ、入稿手続きに入るわよ。みんな、今月もお疲れ様」

 沖浦さんがチーム全員に声をかける。
 こうして毎月、締め切りまでに割り当てられた枠を埋め切る……それが、私たちの仕事だった。

「橋場さんと同じ班になってから、もうすぐ一か月になるのか……」

 定時に仕事を終え、家へと向かう帰り道。
 あっという間に過ぎていく時間を噛みしめながら、ゆっくりと歩いていた。

 一か月……つまり、居候を始めてからも同じくらいの時間が経ったということだ。
 相変わらず、私のズボラさが原因で怒られることは多い。
 意識しているつもりでも、体に染みついた適当さは……そう簡単には抜けてくれない。
 最初に橋場さんに言われた通り、性格というのは一朝一夕で変えられるものじゃないらしい……。

「……お前、何度言ったらわかるんだ」

 今日も今日で、橋場さんの雷が落ちそうな気配。
 いつも通り私が先に帰宅し、今日の掃除場所だった洗面台を念入りに磨いた……つもりだった。
 けれど、帰ってきた橋場さんは……洗面所を見渡した瞬間、眉間に皺を寄せた。

 やばい……怒らせたかも。

「な、何か……?」

「何か、じゃない。前にも言っただろ。床に水滴が垂れていると」

「え、水滴?」

「そうだ。洗面台を綺麗にすることに集中しすぎて、床まで水が飛び散ってるのに気づいてない」

 あ……それ、前にも言われたやつだ。

 鏡や蛇口を必死に水拭きしている中で、水が跳ねていたらしい。
 ちゃんと気をつけていたつもりだったのに、やっぱりどこか抜けている。

「ったく……今日の掃除指定は洗面台じゃなくて、洗面所だ。もっと視野を広く持て」

「はい……申し訳ありませんでした」

「こういうところが、仕事の適当さにも繋がってくるんだ。意識は常に持っておけ」

「……以後、気をつけます」

 あーあ……怒られちゃった。
 今日、会社ではみんなに褒められたばかりだったのに。

 やっぱり私は、まだまだ注意散漫なんだな……。
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