完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
第六話 揺れる心
「こちら、イタリアンサラダでございます」
忙しい日々の合間に訪れた、束の間の休日……日曜日。
いつもなら家でのんびり過ごすところだけど、今日は親友の夏希とランチをする約束をしていた。
ちなみに橋場さんは、いつも通り家で仕事中だ。
「ねえ夏希、サラダ……取り分けちゃっていい?」
「……え?」
「だから、サラダ。取り分けていい?」
そう言った途端、夏希はポカンと口を開けたまま、眉一つ動かさずに私を見つめてきた。
完全に思考が停止している様子なので、顔の前で手をひらひら振る。
「おーい?」
「あ、ごめん……いや、だってさ」
ようやく我に返った夏希が、信じられないものを見るような目で私を指差す。
「まさか、花音の口から、取り分けるなんて言葉が出るとは思わなくて」
「あー、そういうことね。もう私、ズボラ女子は卒業するの」
「……卒業? どうしたのよ、急に」
「だから前にも一回言ったじゃん。会社の上司の家に居候させてもらってるって」
夏希は目を見開いたまま、皿のサラダを勢いよく頬張った。
味わう余裕もないほど早く咀嚼して飲み込み、焦ったように身を乗り出してくる。
「あの、新しく来た完璧上司の家に居候してるって話……マジだったの?」
「マジよ。嘘なんかつかないわ」
夏希の家を追い出されてから、橋場さんの家に転がり込むことになったと……前に電話で伝えたはず。
その時は軽く流されたけど……まさか、本気で信じていなかったとは思わなかった。
私は改めて、橋場さんの家に住むことになった経緯を、最初から順を追って説明した。
ひと通り話し終えるまで、夏希は怪訝な表情を崩すことなく、むしろ睨むように私の口元を見ていた。
「……というのが、事の経緯よ」
「なるほどね……一個だけ聞きたいんだけどさ、男の人と同棲って……やっぱり、そういうこと?」
「そういうことって?」
「だから……体目的とか?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
思わず声を張り上げてしまい、渋谷のイタリアンレストランに私の大袈裟な声が響き渡る。
夏希が慌てて指を唇に当てて、「シーッ」とジェスチャーしてきた。
「……本当に、そういうことは一度もないの。ただ毎日、部下として指導されてるだけ」
「ふーん……“指導”、ね……」
「本当だってば。橋場さんは私に、一ミリも興味ないと思う」
「それはどうかな。向こうも男なんだし」
「私と橋場さんは……天と地くらいつり合ってないの。橋場さんは完璧な人間で、私はズボラな女」
「またすぐ自分を卑下するんだから。花音は可愛いんだって。もっと自信持ちなさいよ」
夏希は話しながら、ちょうど運ばれてきたクリームパスタを口にした。
フォークを回し、私も夏希と同じように食べながら……頭の中では、橋場さんのことを考えている。
橋場さんが私を、居候という形を取ってまで育てようとしてくれたのは……家のない私のことを哀れに思ったからであり、さらには手っ取り早く教育ができると考えたからだ。
そこに、恋愛感情なんてあるはずがない。
本当に、皆無だと思う。
それに……どうしても気になっていることがあった。
エマリさんという、あのインフルエンサー。
彼女が、橋場さんにとってどんな存在なのか。
もしかして、彼女だったり?
いや、私と一緒に住んでいて、それはさすがにないか。
じゃあ、橋場さんの好きな人……?
もしそうだったら、私は邪魔な存在なんじゃ……。
忙しい日々の合間に訪れた、束の間の休日……日曜日。
いつもなら家でのんびり過ごすところだけど、今日は親友の夏希とランチをする約束をしていた。
ちなみに橋場さんは、いつも通り家で仕事中だ。
「ねえ夏希、サラダ……取り分けちゃっていい?」
「……え?」
「だから、サラダ。取り分けていい?」
そう言った途端、夏希はポカンと口を開けたまま、眉一つ動かさずに私を見つめてきた。
完全に思考が停止している様子なので、顔の前で手をひらひら振る。
「おーい?」
「あ、ごめん……いや、だってさ」
ようやく我に返った夏希が、信じられないものを見るような目で私を指差す。
「まさか、花音の口から、取り分けるなんて言葉が出るとは思わなくて」
「あー、そういうことね。もう私、ズボラ女子は卒業するの」
「……卒業? どうしたのよ、急に」
「だから前にも一回言ったじゃん。会社の上司の家に居候させてもらってるって」
夏希は目を見開いたまま、皿のサラダを勢いよく頬張った。
味わう余裕もないほど早く咀嚼して飲み込み、焦ったように身を乗り出してくる。
「あの、新しく来た完璧上司の家に居候してるって話……マジだったの?」
「マジよ。嘘なんかつかないわ」
夏希の家を追い出されてから、橋場さんの家に転がり込むことになったと……前に電話で伝えたはず。
その時は軽く流されたけど……まさか、本気で信じていなかったとは思わなかった。
私は改めて、橋場さんの家に住むことになった経緯を、最初から順を追って説明した。
ひと通り話し終えるまで、夏希は怪訝な表情を崩すことなく、むしろ睨むように私の口元を見ていた。
「……というのが、事の経緯よ」
「なるほどね……一個だけ聞きたいんだけどさ、男の人と同棲って……やっぱり、そういうこと?」
「そういうことって?」
「だから……体目的とか?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
思わず声を張り上げてしまい、渋谷のイタリアンレストランに私の大袈裟な声が響き渡る。
夏希が慌てて指を唇に当てて、「シーッ」とジェスチャーしてきた。
「……本当に、そういうことは一度もないの。ただ毎日、部下として指導されてるだけ」
「ふーん……“指導”、ね……」
「本当だってば。橋場さんは私に、一ミリも興味ないと思う」
「それはどうかな。向こうも男なんだし」
「私と橋場さんは……天と地くらいつり合ってないの。橋場さんは完璧な人間で、私はズボラな女」
「またすぐ自分を卑下するんだから。花音は可愛いんだって。もっと自信持ちなさいよ」
夏希は話しながら、ちょうど運ばれてきたクリームパスタを口にした。
フォークを回し、私も夏希と同じように食べながら……頭の中では、橋場さんのことを考えている。
橋場さんが私を、居候という形を取ってまで育てようとしてくれたのは……家のない私のことを哀れに思ったからであり、さらには手っ取り早く教育ができると考えたからだ。
そこに、恋愛感情なんてあるはずがない。
本当に、皆無だと思う。
それに……どうしても気になっていることがあった。
エマリさんという、あのインフルエンサー。
彼女が、橋場さんにとってどんな存在なのか。
もしかして、彼女だったり?
いや、私と一緒に住んでいて、それはさすがにないか。
じゃあ、橋場さんの好きな人……?
もしそうだったら、私は邪魔な存在なんじゃ……。