完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「どうしたのよ? 今度はしょんぼりして」
「あ、いや……橋場さんに、好きな人っているのかなって……」
「え、やっぱり意識しちゃってるじゃん!」
「別に、そういうんじゃないんだけど……ちょっと気にはなるの」
「そういうのを、好きっていうのよ」
はっきりと教えられ……体が熱くなった。
確かにここ最近、橋場さんにおける淡い感情が顔を出しては……無理に心の奥に押し流していた。
この感情に真正面から向き合ってしまうと、いろいろと傷ついてしまうのが目に見えているからだ。
何も答えず、ただ苦笑いする私を見た夏希は、フォークをくるりと回しながら「でもさ」と現実に引き戻すように言った。
「花音は、光市君を見返すために、その上司に育ててもらってるんでしょ?」
「え? ああ……始まりは、そういう理由だった」
「光市君のこと、もういいの? イイ女になって、もう一回振り向かせるんじゃなかったっけ?」
光市に新しい彼女ができたことは、夏希にも話している。
けれど、橋場さんとの生活の中で、光市への気持ちが薄れてきていることまでは……まだ言っていない。
「実はさ……光市、私と別れる前から、今の彼女と遊んでたみたいなの」
「え、マジ? それって浮気じゃん」
「完全な浮気かはわからないけど……私への気持ちは、冷めてたんだと思う」
「……それはムカつくね。じゃあ、もう光市君とか、どうでもいい感じ?」
「まあ、そうかも」
夏希は視線を落とし、私と同じように少しだけ残念そうな表情を浮かべた。
最後のひと口分のパスタをフォークに巻き取った、そのタイミングで……ぽつりと問いかけてくる。
「じゃあさ……花音は、何のために居候して、誰のために女を磨いてるの?」
何のために、居候させてもらっているのか……。
唐突な問いに私は言葉を失い、首を傾げた。
「今はもう、その上司のために変わったんじゃない?」
「橋場さんのためか……」
「うん。だってさ、会社のためとはいえ、生活の全部を上司に委ねるなんて……普通は続けられないよ? 心のどこかで、上司のことを意識しちゃってるのよ、花音は」
向き合うのが怖くて無視していた感情を、夏希は容赦なく突きつけてくる。
最初は、私が人として成長すれば会社にとってもプラスになるし、自分の人生だって豊かになる……そうするための居候だと橋場さんは言って、私もそれに賛同した。
それが、居候生活の入り口だった。
でも今になって、その目的は密かに変わっている気がする。
私はきっと、橋場さんに認められたいし……好かれたいんだ。
家が確保できるならそれでいい、くらいの軽い気持ちだった居候生活。
それがいつの間にか、「橋場さんのために」という気持ちの比重が増していた。
図星を突かれ、私は黙り込んでしまう。
「……本当に、花音ってわかりやすいわね」
夏希はランチセットについてきた食後のドルチェを口に運び、どこか勝ち誇ったように笑った。
今日のドルチェは、しっとり濃厚ティラミス。
私も小さく口を開け、「そうなのかな……」と呟いてから、スプーンを口に運ぶ。
「でもさ、どうしてその上司は、そこまで花音の面倒を見てくれるんだろうね」
「……え? ああ……私の成長が、会社のためになるからだよ」
「本当にそれだけかなぁ。何か別の理由がある気がするけど」
「別の理由?」
「うん。花音のこと、ここまで目をかけるなんて……何か裏があるんじゃないかな……」
夏希の神妙な面持ちが、背中に冷ややかな風を感じさせた。
確かに、橋場さん自体の話を引き出そうとすると、いつもいなされてしまうのが常だった。
よく考えると、私は橋場さんのこと……まだ何にも知らない気がする。
橋場さん……心の裏側では、一体何を考えているのだろう。
「あ、いや……橋場さんに、好きな人っているのかなって……」
「え、やっぱり意識しちゃってるじゃん!」
「別に、そういうんじゃないんだけど……ちょっと気にはなるの」
「そういうのを、好きっていうのよ」
はっきりと教えられ……体が熱くなった。
確かにここ最近、橋場さんにおける淡い感情が顔を出しては……無理に心の奥に押し流していた。
この感情に真正面から向き合ってしまうと、いろいろと傷ついてしまうのが目に見えているからだ。
何も答えず、ただ苦笑いする私を見た夏希は、フォークをくるりと回しながら「でもさ」と現実に引き戻すように言った。
「花音は、光市君を見返すために、その上司に育ててもらってるんでしょ?」
「え? ああ……始まりは、そういう理由だった」
「光市君のこと、もういいの? イイ女になって、もう一回振り向かせるんじゃなかったっけ?」
光市に新しい彼女ができたことは、夏希にも話している。
けれど、橋場さんとの生活の中で、光市への気持ちが薄れてきていることまでは……まだ言っていない。
「実はさ……光市、私と別れる前から、今の彼女と遊んでたみたいなの」
「え、マジ? それって浮気じゃん」
「完全な浮気かはわからないけど……私への気持ちは、冷めてたんだと思う」
「……それはムカつくね。じゃあ、もう光市君とか、どうでもいい感じ?」
「まあ、そうかも」
夏希は視線を落とし、私と同じように少しだけ残念そうな表情を浮かべた。
最後のひと口分のパスタをフォークに巻き取った、そのタイミングで……ぽつりと問いかけてくる。
「じゃあさ……花音は、何のために居候して、誰のために女を磨いてるの?」
何のために、居候させてもらっているのか……。
唐突な問いに私は言葉を失い、首を傾げた。
「今はもう、その上司のために変わったんじゃない?」
「橋場さんのためか……」
「うん。だってさ、会社のためとはいえ、生活の全部を上司に委ねるなんて……普通は続けられないよ? 心のどこかで、上司のことを意識しちゃってるのよ、花音は」
向き合うのが怖くて無視していた感情を、夏希は容赦なく突きつけてくる。
最初は、私が人として成長すれば会社にとってもプラスになるし、自分の人生だって豊かになる……そうするための居候だと橋場さんは言って、私もそれに賛同した。
それが、居候生活の入り口だった。
でも今になって、その目的は密かに変わっている気がする。
私はきっと、橋場さんに認められたいし……好かれたいんだ。
家が確保できるならそれでいい、くらいの軽い気持ちだった居候生活。
それがいつの間にか、「橋場さんのために」という気持ちの比重が増していた。
図星を突かれ、私は黙り込んでしまう。
「……本当に、花音ってわかりやすいわね」
夏希はランチセットについてきた食後のドルチェを口に運び、どこか勝ち誇ったように笑った。
今日のドルチェは、しっとり濃厚ティラミス。
私も小さく口を開け、「そうなのかな……」と呟いてから、スプーンを口に運ぶ。
「でもさ、どうしてその上司は、そこまで花音の面倒を見てくれるんだろうね」
「……え? ああ……私の成長が、会社のためになるからだよ」
「本当にそれだけかなぁ。何か別の理由がある気がするけど」
「別の理由?」
「うん。花音のこと、ここまで目をかけるなんて……何か裏があるんじゃないかな……」
夏希の神妙な面持ちが、背中に冷ややかな風を感じさせた。
確かに、橋場さん自体の話を引き出そうとすると、いつもいなされてしまうのが常だった。
よく考えると、私は橋場さんのこと……まだ何にも知らない気がする。
橋場さん……心の裏側では、一体何を考えているのだろう。