完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「ちょっと来い」

 橋場さんは寝室の方へと足を進めた。
 急に息がしづらくなってきたのは、エマリさんのことを考えたせいだろうか。
 ストレスって、こんなにも早く体に出るものなんだと、改めて思い知らされる。
 それでも何とか声を振り絞って、「はい」と答え寝室まで向かった。

「このアクスタ、どこに配置すればいいと思う」

 ローチェストの上に並べた秀吉コレクションを見渡しながら、嬉しそうに尋ねてくる。
 正直どうでもいいと思ったけど、真剣に答えないと怒られそうなので、ちょうど可愛い系のグッズが並んでいる一角を指差した。

「こことか、合いそうですね」

「うん、やっぱりそうだよな。同系統で固めた方がいいか」

 いつもの橋場さんよりも、だいぶ柔らかい表情。
 豊臣秀吉のことになると、鎧みたいにまとっているクールさがふっと緩み、無防備な隙が生まれる。
 でも、どうしてか今は……その隙にキュンとできなかった。

「ん? どうしたんだ石田、遠い目をして」

「え、あ、いや、何でもありません」

「そんなに秀吉に興味がないか?」

「いや、そういうわけでは……」

「いいか。秀吉はな、農民出身なのに天下人までのし上がった英雄で……」

 スイッチが入ったかのように、橋場さんが早口で語り始める。
 今の状態でそんな難しい話が聞けるわけもなく、頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱されていく。

「おい、聞いているのか?」

 適当に相槌を打ったのが気に障ったのか、橋場さんは目を吊り上げ、詰め寄るように問いかけてきた。
 もう、我慢できない……。
 私はその迫りくる険しい表情を無視するように、逆にこっちから聞いてしまった。

「……このグッズ、誰から貰ったんですか」

「は? 何を言ってるんだ?」

「だから、このグッズ……誰から貰ったんですか? こんなに可愛いもの、絶対女性からですよね?」

 橋場さんの表情から、少しずつ険しさが抜けていく。
 代わりに、今度は私の方が押し込んでいるような空気になった。

「これは……確かに女性から貰ったものだ」

 目を泳がせながら答える橋場さん。
 その言葉が耳に入った瞬間、視界がゆっくりと狭くなっていった。

「ただ、これをくれた人は」

 これ以上聞きたくない……私は咄嗟に、満面の笑みを作った。

「いやいや、説明しなくても大丈夫ですよ! こんなに可愛いグッズ、男性から貰ったとしたらちょっと変ですもんね」

「ま、まあ、そうだな」

「秀吉の話はまた今度聞かせてください。難しい話を聞いていたら、頭が痛くなってきて」

 さすがに様子がおかしいと思ったのか、橋場さんが私の顔を覗き込む。

「大丈夫か?」

 あれ、最初は演技だったのに、本当に痛くなってきたぞ……。

「何か、ガンガンしてきました」

「と、とりあえず、ベッドに入れ。ここ、使っていいから」

 橋場さんのベッドに、導かれる。
 抵抗する余裕もなく、私はそのままベッドに身を預けた。
 まさか、橋場さんのベッドの中に入ることになるなんて……。
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