完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
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「まさか律人が……女の子と同棲してたなんて……」
「だから、同棲じゃない。居候だ。鍛えるために、住まわせてるだけだ」
午後一番。嘘のアポイントをスケジュールに入れて、外へ出た。
石田は企画書のまとめに取りかかったので、俺の外出について何の反応もなかった。
業務中なのに私用で外出するのは気が引けるけど……とにかくこのモヤモヤを発散したくて仕方がない。
渋谷のカフェで、エマリと向かい合う。
思い立ってすぐにメッセージを送ったら、今だったら会えると言ってくれた。
なかなかスケジュールが空かないエマリとは、こういう隙間時間に会うことが多い。
「それにしても……急に悪かったな、エマリ」
「全然。むしろ今しか空いてなくてごめんね」
「いや、助かった。どうしてもエマリに聞いてほしくて」
こいつには、昔から全部見透かされてきた。
取り繕っても意味がないし、変に格好つける必要もない。
会社の部下を居候させているという冒頭だけで、早速エマリは姿勢を正して応じてくれた。
「でもさ、律人。部下とはいえ、普通は女の子を家に住まわせないよ? どういう流れ?」
「転職してすぐ、石田の上司になった。石田の生活が、あまりに杜撰でな。このままじゃ仕事に支障が出ると思って……管理するために居候させた」
「ちょっと待って? ツッコミどころ多すぎなんだけど」
エマリはカフェラテを置き、指を折りながら順番に整理し始める。
俺も端折りすぎた自覚はあるから、細かく聞き返してくれるのはありがたい。
会話を重ねていくと、バラバラだった経緯が一本の線になっていく。
どうして……こんな状況になったのか。そして今、俺が何に引っかかっているのか。
「なるほどね……彼氏に振られて住む場所も不安定な時に律人と出会った、と。それが始まりで……今こんなに悩んでるわけか」
「……ああ。正直、自分のことが……よくわからなくなってきた」
エマリは「意外ねぇ」と口にして、面白がるように目を細めた。
こんな話を俺がするなんて、信じられないのだろう。
「律人ってさ、人を好きになる機能ほぼ停止してるタイプだったじゃん」
「……じゃあエマリは、この感情が恋だと思うのか?」
「思うも何も、それ以外ある? その子のことばっか考えてるんでしょ?」
「……まあな。最近は仕事してるか、石田のことを考えてるかだ」
「確定じゃない。律人、完全に恋してるわよ」
軽く言われたのに、妙に胸に落ちて……曖昧だった輪郭がはっきり線を結ぶ。
そうか、これは恋なのか。
「で、でもな……」
俺の中に存在している恋という感情を、素直に受け入れられない自分がいる。
エマリには俺の考えが透けて見えるようで、呆れるように、でもどこか深刻そうに笑った。
「律人。もう、あの人に囚われるのはやめにしましょ」