完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
 あの人……エマリの言葉で頭の中に浮かび上がる、忌々しい存在。
 核心を突いてくるエマリに、言い返すことはできなかった。

「確かに私たちは、あの人に振り回されてきた。特に律人は、たくさん我慢したと思う」

「……ああ」

「家のことを全部律人に押しつけて、ほとんど育児放棄。自分勝手に、若い男と遊び歩く毎日……」

「やめろ、思い出したくない」

 エマリの言葉を遮る。これ以上聞いていたら、耳を塞ぎたくなる。
 俺とエマリは……あいつに振り回されながらも、どうにか生き延びてきた。

 ――父親が愛人を作って家から出ていったのは……俺が高校生の頃だった。
 そしてエマリが「あの人」と呼び、俺が「あいつ」と呼ぶのは……俺たちの母親のことだ。
 三人で暮らすようになってから、あいつは明らかに変わっていった。

「でもそうじゃない。律人はあの人のせいで、人を好きになることにトラウマを抱くようになった」

「……まあ、結果的にはそうなるな」

 エマリの言葉は、否定しようのない事実だった。
 俺が人を好きになることを恐れるようになった理由は……あいつにある。

 あいつは……現実から目を背けるように、俺たちと向き合うのをやめた。
 父親から送られてくる養育費で遊び尽くし、俺たち兄妹の生活は常にカツカツだった。
 俺はバイトを掛け持ちしながら家事を一手に引き受け、息をつく暇もない学生生活を送っていた。

 今でも、突然言われたあいつの言葉が……脳裏から離れない。

『もう……あなたたちに私はいらないわね。あとは勝手に生きてちょうだい』

 俺が家のことをこなせるようになったせいで、あいつは安心したのだろう。
 そのまま、俺たちを置いて家を出ていった……完全な育児放棄だった。
 すぐに事情を知った父方の親戚に面倒を見てもらうようになったが……俺たちは悲しみに明け暮れた。
 両親どちらともから捨てられた子どもなんて……そんなもの、まともに胸を張って生きられる存在じゃない。

「律人、あの人のせいで性格が歪んでしまったじゃない。細かすぎるっていうか」

「……これまで付き合ってきた相手は、みんな俺の細かさに嫌気が差して離れていった」

「そうそう。それで、恋愛にコンプレックスを持つようになったのよね」

 あいつのような人間であってほしくない。だから、付き合った相手のだらしない一面を見ると、嫌でも指摘したくなる。
 そのせいで、俺は恋愛不適合者だと悟った。
 あいつの影が、俺の中の恋という感情に、蓋をしてしまったんだ。

「最初は、その子のことが放っておけなかったんでしょ? あの人みたいになってほしくないから、この居候生活を思いついたのね」

「ああ。あいつのようなだらしない人間が社内にいるということが……許せなかった。だから俺が、そいつの教育を買って出た。まあ、居候までさせるつもりはなかったが……事情が事情だったからな」

「家がない子を、放ってはおけないもんね」
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