完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「よし、座れ」

 小会議室は、長方形のテーブルを囲む簡素なレイアウト。
 適当に椅子を引いて座ると、橋場さんは向かいの席に腰を下ろした。

 逃げ場、ゼロだ。

「今まで、ラーメン班で記事を書いていたらしいな?」

「あ……はい。江本さんの指示通りにやっていただけですけど……」

「企画立案、取材、執筆、校正、デザイン確認……」

 淡々と指を折りながら、続ける。

「一連の流れは、ひと通り経験しているのか?」

「ま、まあ……どれも、軽ーくやってたって感じです」

 まるで取り調べのようだ。
 矢継ぎ早に投げられる質問に、心の準備が追いつかない。
 橋場さんは開いている自分のパソコンに目を通すと、小さく頷いた。

「なるほどな」

 その一言が、不気味すぎて恐ろしい。

「肝心なのは、読者の目を引く企画力と取材力だ」

 パソコンの画面を見ながら、視線を上げずに続ける。

「その点は、江本頼みだったみたいだな」

「……そうです」

 核心を突かれ、背中が丸くなる。
 江本さんの優しさに甘えてきたということが……橋場さんには、バレバレだった。
 橋場さんは表情を一切変えず、私を真っ直ぐ見据える。

「石田は、それでいいのか?」

「……え?」

「このままだと、お前はずっと今と変わらない」

 ――その言葉は、胸の奥にずしりと落ちた。

「……ずっと今と、変わらない?」

 その言葉が、頭の中で何度も反響する。
 これは……ただの業務確認じゃない。
 私の人生そのものに向けられた、問いかけのように聞こえた。

 本当に、このまま生きていくのか?
 いつまでもだらしなく、流されるままで……?
 橋場さんにそう問われている気がして、思わずフリーズしてしまう。

「沖浦編集長から、いろいろ聞いた」

 淡々とした声が、現実に引き戻す。

「石田、普段から相当ズボラらしいな」

「……うぅ。沖浦さん、余計なことを……」

「仕事を円滑に進めるためには、部下のパーソナリティを把握しておくのは当然だ」

「は、はい……」

 冷静な口調なのに、圧がすごい。
 空気がぎゅっと縮んだみたいで、息苦しさすら覚える。

「昨日の夜は、何を食べた?」

「……カップラーメンです」

「ほう。じゃあ一昨日の夜は?」

「カップラーメン」

「その前は?」

「……カップラーメンです」

 三回目で、橋場さんは額に手を当てた。
 食をテーマにした雑誌を作っている人間が、毎晩カップラーメンなんて。
 内心、呆れているに違いない……。

「一人暮らしか?」

「え? あ、ま、まあ……」

「……今、濁したな」

 鋭い視線が突き刺さる。

「本当のことを言ってもらおうか」

「い、いや……その……」

「何だ?」

「……ちょっと今、住む家がなくて」

 あ、つい言ってしまった。

「まあ、いろいろありまして……」

 橋場さんは腕を組み目を細めると、机越しに少しだけ顔を近づけてくる。
 距離はあるはずなのに、やたら近く感じて……背筋が伸びた。

「聞かせてもらおうか」

 ……ダメだ。
 もう、誤魔化すことはできない。

 変に嘘をついてもすぐに見抜かれる気しかしないし……それ以上に、少しだけ聞いてほしい気持ちもあった。

 今の私が、どれだけズタボロなのかを。

「実は……私……」

 そう前置きしてから、私はこの一週間の出来事をざっと話した。
 相手は、今日初めて会ったばかりの新上司。
 しかも、相性最悪だと感じている人。

 それなのに私は……驚くほど素直に、恥ずかしいほど赤裸々に、自分の状況を打ち明けていた。
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