完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「……ズボラさが原因で、同棲していた家を追い出されたのか」

「まあ……飛び出したのは、私ですけど」

 橋場さんは笑いもせず、茶化しもせず、淡々と話を聞いていた。
 仕事とは何の関係もない恋愛の話を、こんなに真剣に受け止められるとは思っていなかった。

 それが少しだけ……意外だった。

「それで、その彼にはもうすでに良い人がいると?」

「はい。私とは正反対な……すごく、しっかりしてそうな大人の女性です」

「……それは、精神的にくるな」

 短い言葉なのに、不思議と胸に刺さる。

「……はい。私のズボラさが、よっぽど嫌だったんだなって」

 話しているうちに、自分の表情がどんどん強張っていくのがわかる……。

 光市と付き合い始めたのは、大学の頃だった。
 そのまま社会人になって、同棲を始めて……そして、別れた。
 これまで、なるべく思い出さないようにしてきたのに……今になって、一気に込み上げてくる。

 気を抜いたら……今にも涙が溢れてしまいそうだった。

「石田……」

「……はい?」

「……お前は、まだその彼のことが好きなのか?」

 心臓がドクンと大きく跳ね、思考がストップしてしまう。
 そんなことを聞かれるなんて……思いもしなかった。
 答えを探そうとして、言葉が喉につかえる。

「私は……」

 私の返事を待つように、橋場さんはじっとこちらを見ていた。
 冷静で、感情の読めない視線。
 全く逃げようがないように思える。

 圧力に耐えきれず、声が震えてしまう。
 それでも……自分の胸のうちだけは、誤魔化したくなかった。

「正直……まだ、好きな気持ちはあります」

 それが、私の本音だった。

 別れたという現実を直視するのが怖くて、考えないようにしてきた。
 でも実際は、喪失感に押し潰されそうな毎日だった。

「これで、諦めていいのか?」

「……え?」

「また、その彼に振り向いてもらえばいいじゃないか」

「……そんな簡単に言われても」

 もう一度、光市にアタックするってこと?
 あんなに素敵そうな女性が隣にいるのに?

 今頃きっと、新しい恋で楽しい時期だ。
 私なんて、もう忘れ去られた過去の女に決まっている。

「無理ですよ……私なんかじゃ」

「……諦めるのか?」

「だって……それ以外、方法がないですもん」

 橋場さんは、ふっと立ち上がると、窓の方へ歩いていった。
 背を向けたまま、外の景色を眺める。

 私が、涙を堪えながら吐き出す弱音を……何も言わずに、ただ黙って聞いていた。

「私は一生、ズボラのまんま生きていくんです。それでいいんですよ」

 吐き出すように言った言葉は、どこか空っぽだった。
 無理に自分を納得させようとしているのが、伝わってしまったかもしれない。

「これが自分を変える、いいきっかけになるんじゃないのか?」

 橋場さんは窓の外に向けていた視線を、ゆっくりと私へ戻した。
 的確に、核心だけを突いてくるその言葉は……まるで私の劣等感をわざと刺激しているみたいだ。

 ……だから、無理なんだって。

 気づくと、少し反抗的な口調になっていた。

「私は……この生き方を変えてまで、彼を取り戻そうとは思いません」

「まだ好きなのにか?」

「そ、それは……」
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