完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「橋場さん……実は僕、宮坂さんと付き合うことになったんです」

「宮坂と?」

 安斎は頬を赤らめ、照れくさそうに笑った。
 てっきり仕事の相談だと思っていた俺は、不意を突かれて声が裏返る。
 まさか安斎が、スイーツ班の宮坂とそんな関係になっていたとは。

「チームの誰にも言ってないんですけど……橋場さんには、最初に伝えたくて」

「そ、そうだったのか……いや、良かったじゃないか」

「ありがとうございます。でも、仕事はこれまで通り、きっちりやります」

「ああ、頼むぞ。喧嘩して協調性を欠くなんてことだけは、ないようにな」

 安斎はにこりと笑い、ビールをひと口あおった。
 最近の安斎と宮坂の充実そうな表情と、仕事のやる気を見たら……納得できる。
 そうか……水面下で、少しずつ距離を縮めていたのか。

「じゃあ、今日はお祝いだな」

 そう言って、もう一度ジョッキを軽くぶつけた。
 安斎は俺に報告できたことで安心したのか、それから声色が一段階高くなった気がする。

「橋場さんは、彼女とかいないんですか?」

「ん? ああ、いないが」

「やっぱり今は、仕事一筋って感じですかね」

「そうだな……そういうことにしておこう」

 脳裏に、石田の存在がちらつく。
 それを表に出さないよう、いつも通りの調子で受け流した。
 この歪んだ恋愛観を……職場の誰にも知られるわけにはいかない。

「……石田ちゃんとか、どうですか?」

 思いがけない一言に、口に含んでいたビールを吹き出しそうになった。
 慌ててこぼれた分を、おしぼりで拭う。

「す、すいません! 変なこと言っちゃって!」

「……い、いや。大丈夫だ。ちょっと驚いただけで」

 動揺を悟られないように、小さく笑ってみせる。
 軽い冗談として受け流す……そんな体で振る舞っていると、安斎はそのまま話を続けた。

「いや……でも本当に、橋場さんには石田ちゃんみたいな人が合うと思うんですよ」

「それは……どうしてだ?」

「ああいう……ちょっと抜けてるタイプ? の方が、橋場さんには合ってる気がするんです」

「ほお、興味深いな」

 安斎は得意げに頷き、さらに言葉を重ねていく。
 気づけば俺は、まるで占い師の助言でも聞くかのように、一言一句を聞き逃すまいと耳を傾けていた。

「橋場さんって、自分の世界をしっかり持ってる人だと思うんですよ。完璧主義というか。そういう人に付き合えるのって、ある意味……呑気なタイプだと思うんです」

「呑気なタイプ……それが石田か?」

「はい。石田ちゃんと一緒に仕事してると、ピンチの場面でもピンチって感じないというか……不思議と、気持ちが楽になることがあるんですよね」

「……わかる気がする」

 安斎の語る石田像は、どれも腑に落ちるものばかりだった。
 他人の口から語られる石田の評価は新鮮で……それでいてどこか誇らしい。
 確かに、俺の細かい指摘についてこれるのは、石田だけなのかもしれないな……。
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